自費出版本紹介

2008年8月30日 (土)

『ハワイアンプロジェクト』小﨑章光著 

 一昨年、「フラガール」という映画が公開され、日本アカデミー賞他の賞を総なめにし、観客動員数125万人、興行収入15億円と興行的にも大ヒットした。
 内容は、燃料革命により、大規模な縮小を迫られ、存亡の危機を迎えた常磐炭砿が、会社や社員、その家族、町を救うために「常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)を立ち上げる苦労話の中のフラダンスダンスチーム誕生を描いた作品である。しかし、今から約40年前の福島県でのことである。まだまだ、女性は「貞淑」だとか「大和撫子」だとかいう言葉が尊重された時代である。人様の前で、裸に近い衣装で踊るなどは、親や大人にとっては非常に不謹慎だったのである。
 この本の著者は、その常磐炭砿㈱で総務担当として人員整理、再就職の業務にあたり、その後、会社の新規観光事業の開発企画担当者として全企画を作成された方である。炭砿マンが全く畑違いの観光業に転進するわけである。この本を読むと、映画「フラガール」が描く難産話は、このプロジェクト中のほんの氷山の一角にすぎない苦労話であることがわかる。
 炭砿の大敵である豊富な「温泉」を今度は味方に引き入れ、観光事業に転進するというのが基本的な発想の原点である。また、当時の〝行ってみたい外国アンケートで〟圧倒的ナンバー1であり、まだまだ庶民には夢の夢であった「ハワイ」に着目、常磐の地に常夏の「ハワイ」を再現するという、なんとも夢のような大プロジェクトであった。
 スタッフのほとんどが、ど素人である。というか、炭砿労働者に職場を確保し、その家族の生活を守るというのが、この壮大なプロジェクトの目的の一つである。当然、その道の専門家を各方面から集めるのであれば、その目的を達成することができなくなってしまうわけである。
 しかし、業務は広範囲である。地元折衝、用地買収から、温泉施設の建築、熱帯植物の植栽、宿泊施設、飲食施設、調理、舞踏・音楽、ゲーム、営業、宣伝、マスコミ対策、従業員教育・研修と気の遠くなるような難問を次々にクリアしていかなければならないのである。
 舞踏要員は、映画のとおりであるが、調理要員は、従業員子弟の中から募集し、1年間から1年半、各地のホテルや旅館に費用を会社が負担して派遣、そこで修行、習得させたのである。
 すべてが難問であるのだが、中でも熱帯植物の植栽である。東京農業大学の教授に相談するが、何度行っても、移植生育は不可能だと一蹴されてしまうのである。そこで、社長は、「気にいった。不可能を可能にせよ」との指令を出し、結局、温度、土壌他に工夫に工夫を重ねて植栽に成功してしまうのである。
 しかし、この常磐興産㈱当時の中村社長(映画では岸辺一徳が演じた)である。その当時のお金で、1企業で20億円以上かかる大事業である。それも、炭砿業から180度違う文字通りの〝水商売〟である温泉業、観光業への大転進である。現実に、「成功する筈もなく、経営基盤を揺るがすものとして、大方の見方は否定的であった。」、「建設資金等の調達が非常に困難を極めた。」と、この本にも記されている。最終的には中村社長が押し切る形で事業を進めたのであるが、いかに大きな英断を下されたかがわかる。当時の経営者は肝っ玉が据わっていたのである。
 オープン後は大成功で、マスコミも連日報道合戦を繰り広げ、宿泊客は併設の施設ではまかなえるわけもなく、近隣の温泉旅館他も満員になるという大盛況であった。その後も爆発的な人気を呼び、オープン4年後の1970年には、年間来場者が155万人を突破、10年間に1千万人の客動員をかけるという計画は、約8年間で達成されたのである。
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2008年8月 7日 (木)

戦争体験本

 広島の原爆記念日を終え、終戦記念日に向かうこの時期は、戦争に関する番組がテレビで放映されています。昨年、『わたしのシベリアノート』(加藤信忠著 武田出版刊)の発刊にかかわりました。著者は終戦後シベリアに抑留されて、無事帰国することができたのですが、病気を患っていたために舞鶴の病院に数ヶ月の入院を余儀なくされました。その入院している期間に2冊のノートにびっしりとシベリアでの体験を書き残し、それを昨年一冊の本として出版されました。まだ、記憶が鮮明な頃に書いたものなので、真実の迫力が伝わります。
 その本によると、残念ながら途中で没し帰国できなかった人は、終戦直前に召集された、まともに軍事訓練や寒冷地訓練を受けていなかった人たちが多かったということです。最後は、本当は負けると分かっている戦地に国民をを送り込み、みすみす犬死させているのです。その当時の行政や為政者がいかに人権という認識がなく、国民の命を軽視していたかがわかります。その後、この国は大きく反省し、新憲法の下「主権在民」、「人権尊重」を標榜してきました。しかし、昨今の後期高齢者の扱い、年金に対する無責任な対応を見ていると、この国の行政は、また、「人権軽視」の方向へ後戻りを始めているのではないかと心配です。
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2008年6月20日 (金)

『老年H』小林三郎著 文芸社刊

 自費出版の代表選手といってもよいのが「自分史」ある。もっとも有名なのが、日経新聞の『わたしの履歴書』であるが、なにも有名人だけが面白い訳ではない。一般の人々も長く生きた人には、まさに「人に歴史あり」なので、この分野の本はどれを読んでも退屈なものはない。フィクションではなく、現実にあった事実なので、迫力があり読者を圧倒する。

 今回、ご紹介するのは偶然出会った1冊であるで『老年H』という本である。多分、妹尾河童の『少年H』をもじったものなのであろうが、久しぶりに大笑いしてしまった。純粋な「自分史」というものではなく「自分史エッセイ」とでも位置付ければよいかもしれない。

 著者は、広島のすぐ隣、岩国にある化学会社の研究所で長年勤務していたのだが、54歳のときに突然、ドイツの会社と合弁でつくられた子会社、L化粧品㈱の社長として出向を命じられるのです。その会社は頭髪専門の会社なのだが、皮肉なことに著者は禿(失礼、本には「毛の薄い私」と書いています)だった。実際に勤務してみると、お飾り社長で権限はほとんどない、そのうちリストラ話も起こって部下を守らなければならない。自分もその波に飲まれそうになる。その期間を通しての抱腹絶倒の苦労話である。

 著者プロフィールを見ると、昭和5年生まれとあるので、失礼ながら現在76~77歳、この本の発行は2003年なので、70歳を過ぎて発行されたものだ。しかし、その文章のセンスには驚かされた。日本人がもっとも苦手とするエスプリが本全体に漂っているのである。また、随所にシモネタが出てくるのだが、いやらしさをまったく感じさせることなくて実にスマート、これも日本人の苦手部門である。理科系の教育を受けた人が書いたとは思えない内容だ。在野には、まだまだ多くの才能が埋まっているのだろうな、と思わされた。

 特に頭髪(禿)に関する記述が圧倒的に面白い。禿のことを書かせたら、多分日本一の作家ではないかと思う。数箇所紹介すると、ある日、通勤電車に乗って一駅目でのこと、立っている自分の前に座っている「禿の男」が下車した。「そのあとにゆったりと腰を下ろし心に刻む。”明日もまた彼の前に立つとしよう“。(本文より)」。翌日も彼の前に立ったが、その禿の男は降りず、背後の別の禿の男が下車した。不覚にも禿の男を間違えてしまったのだ。その後、著者は禿Aと禿Bと名付ける。そして、その男の前を巡っての攻防が何人かではじまるが、幾人かは誤って禿Bの前に立つ。しかし、禿Aは車両の場所を変え、皆を翻弄する・・・と続いていくのである。

 また、この不公平な頭髪の問題も、将来は科学が進み、禿防止の予防注射が行われだろうと予想する。「医務室の廊下には“昔はこんな人たちもありました。必ず注射を受けましょう”と私たちの写真を使ったポスターが貼られているかも知れない。(本文より)」と悲しくつづる。

 この本にも、「軍国少年」という章があるが、自分史の中でも、戦時中の体験を記述する人は数多い。当然、鮮烈で異常な体験であるので当たり前のことであるが、読むたびに、その体験した記憶の重さには、戦後生まれの私は心から頭が下がる思いである。しかし、彼らは悲惨ではあったが、決して暗くはなかった、どれにも若者独特の前向な思いを感じることができる。また、必ず彼らが語るのは、この体験は私たちで終わりにしないといけない、ということである。そのためにも、まだまだ多くの方々に自らの貴重な体験を後世につないでほしいと思う。
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2008年4月 4日 (金)

ブログの本

このブログを始めて1週間がたちました。書き始めてみて、若い頃にこのようなツールがあれば、どんなにか有意義な人生だったかと思います。
デジタル世代の「ブログ」とアナログ世代の「書籍」とは、一見相容れず、共棲しないように思われますが、ブログで書いたものを再編集して1冊の本にしたものが以外に多くあります。どちらにも一長一短があり、コンパクトに1つのカテゴリーテーマをまとめるには、書籍の方に分があるようです。
この本もそんなブログをまとめた本です。ブログというと若者といったイメージがありますが、著者は1942年生まれなので若者とはいえないでしょう。若者ではない人にも是非、ブログやホームページ作りを楽しんでいただきたいものです。
2006年の1年分をまとめたのが『情報幼児国日本』で、2007年をまとめたのが『不確かな日本』です。著者は、政治、行政、社会、メディア他に鉄槌をくだしており、日頃から「消えた年金問題」や「行政の無駄遣い」に怒っている私には胸のすく一冊です。現代は、未来から見れば激動の時代かもしれず、著者の記録はもちろんのこと、この国の貴重な記録になるものと思います。
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Photo_4『情報幼児国日本』
2007年4月30日発行
著者:吉澤兄一
発行:㈱武田出版
発売:㈱星雲社
ISBN978-4-434-10487-9

2『不確かな日本』
2008年1月15日発行
著者:吉澤兄一
発行:㈱武田出版
発売:㈱星雲社
ISBN978-4-434-11441-0

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