『ハワイアンプロジェクト』小﨑章光著
一昨年、「フラガール」という映画が公開され、日本アカデミー賞他の賞を総なめにし、観客動員数125万人、興行収入15億円と興行的にも大ヒットした。
内容は、燃料革命により、大規模な縮小を迫られ、存亡の危機を迎えた常磐炭砿が、会社や社員、その家族、町を救うために「常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)を立ち上げる苦労話の中のフラダンスダンスチーム誕生を描いた作品である。しかし、今から約40年前の福島県でのことである。まだまだ、女性は「貞淑」だとか「大和撫子」だとかいう言葉が尊重された時代である。人様の前で、裸に近い衣装で踊るなどは、親や大人にとっては非常に不謹慎だったのである。
この本の著者は、その常磐炭砿㈱で総務担当として人員整理、再就職の業務にあたり、その後、会社の新規観光事業の開発企画担当者として全企画を作成された方である。炭砿マンが全く畑違いの観光業に転進するわけである。この本を読むと、映画「フラガール」が描く難産話は、このプロジェクト中のほんの氷山の一角にすぎない苦労話であることがわかる。
炭砿の大敵である豊富な「温泉」を今度は味方に引き入れ、観光事業に転進するというのが基本的な発想の原点である。また、当時の〝行ってみたい外国アンケートで〟圧倒的ナンバー1であり、まだまだ庶民には夢の夢であった「ハワイ」に着目、常磐の地に常夏の「ハワイ」を再現するという、なんとも夢のような大プロジェクトであった。
スタッフのほとんどが、ど素人である。というか、炭砿労働者に職場を確保し、その家族の生活を守るというのが、この壮大なプロジェクトの目的の一つである。当然、その道の専門家を各方面から集めるのであれば、その目的を達成することができなくなってしまうわけである。
しかし、業務は広範囲である。地元折衝、用地買収から、温泉施設の建築、熱帯植物の植栽、宿泊施設、飲食施設、調理、舞踏・音楽、ゲーム、営業、宣伝、マスコミ対策、従業員教育・研修と気の遠くなるような難問を次々にクリアしていかなければならないのである。
舞踏要員は、映画のとおりであるが、調理要員は、従業員子弟の中から募集し、1年間から1年半、各地のホテルや旅館に費用を会社が負担して派遣、そこで修行、習得させたのである。
すべてが難問であるのだが、中でも熱帯植物の植栽である。東京農業大学の教授に相談するが、何度行っても、移植生育は不可能だと一蹴されてしまうのである。そこで、社長は、「気にいった。不可能を可能にせよ」との指令を出し、結局、温度、土壌他に工夫に工夫を重ねて植栽に成功してしまうのである。
しかし、この常磐興産㈱当時の中村社長(映画では岸辺一徳が演じた)である。その当時のお金で、1企業で20億円以上かかる大事業である。それも、炭砿業から180度違う文字通りの〝水商売〟である温泉業、観光業への大転進である。現実に、「成功する筈もなく、経営基盤を揺るがすものとして、大方の見方は否定的であった。」、「建設資金等の調達が非常に困難を極めた。」と、この本にも記されている。最終的には中村社長が押し切る形で事業を進めたのであるが、いかに大きな英断を下されたかがわかる。当時の経営者は肝っ玉が据わっていたのである。
オープン後は大成功で、マスコミも連日報道合戦を繰り広げ、宿泊客は併設の施設ではまかなえるわけもなく、近隣の温泉旅館他も満員になるという大盛況であった。その後も爆発的な人気を呼び、オープン4年後の1970年には、年間来場者が155万人を突破、10年間に1千万人の客動員をかけるという計画は、約8年間で達成されたのである。
湘南社http://shonansya.com
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)




最近のコメント